それでも続くつわり

結局その日も朝方まで眠れず、睡眠時間は2時間程度しか取れなかった。

 

寝不足独特の頭の重さ。

そして、朝のつわりは相変わらずで、ウッとなって目が覚める。

 

赤ちゃんがいてこそ耐えられるつわりも、赤ちゃんがいないと分かっていると、ただの苦痛でしかない。

 

流産後もhCGが高いままだから、しばらくはつわり症状が続くこともあるという。

 

しんどいなー。

メンタルに追い討ちをかけられてる気分。

 

 

 

今日こそは仕事に行こうと思っていたが、ちょっと頑張れないなと思った。

 

流産したことはその日のうちに師長に報告した。

夕方、電話をくれた。

「家にいてもメソメソしちゃうので、明日からは仕事行こうと思います。みなさんには気を遣わせてしまうかもしれないですが、仕事している方が気が紛れるので。いろいろすみません。」

 

 

自分から仕事へ行くと宣言したにもかかわらず、連日の寝不足にプラスして朝のつわり。

ああ、これは無理だ、仕事行ってもメソメソする、と思った。

 

師長に「申し訳ないですが、今日だけ休ませてください。明日からは必ず出勤します。あと、流産の件ですが、とても自分からは言えないので師長さんから先にみなさんに伝えていただけませんか?」と連絡する。

 

はぁ。

甘えてると思われてもいいや。

自分の心を守るためにはこうするしかないや。

 

とにかく今日はドロドロに眠ろうと思う。

何も考えたくない。

 

 

 

 

妊娠報告してしまっていた近しい友人にも流産の連絡もしなければならない。

私の妊娠発覚と同じ時期に義姉と友人も妊娠していた。

 

「産まれたら同級生だね」

「一緒に遊ばせたいね」

そんなキラキラした生活しか見えてなかった。

 

まさか流産するなんて思ってもいなかったから、こんな悲しい話をしなくちゃいけないことが重みとなってまたのしかかってくる。

 

流産がこんなにも身近にあって、そしてまさか我が身に降りかかってくるなんて思ってもなかった。

 

でも今回当事者になってみて、妊娠出産という、世間的な幸せの象徴の影では、こんなに悲しい思いをしている人がいることに初めて気がついた。

 

順調に経過して出産していたら、この影に隠れている人の気持ちも考えず、私は幸せの押し売りをしてしまっていたかもしれない。

しかもかなり一方的で強引な、それでいて悪気はない悪質さのある押し売り。

 

人を傷つけ、信用を失ってしまっていたかもしれない。

 

そこに気づけたことは、今回の事は私にとって、とても意義のある事だったんだと思う。

 

 

自分とは異なる立場の人がいるということ。

センシティブになりすぎる必要はないが、そこには配慮が必要だということ。

 

今までの自分はいかに視野が狭かったのかよーく分かった。

 

 

でも、やっぱり羨ましいと思ってしまうだろうし、その友人や義姉の赤ちゃんを見たら泣いてしまうかもしれない。

『あの時の私も赤ちゃんも、ちゃんと育ててあげられたら今頃こうして抱っこできてたのに』

って不意に悲しくなるかもしれない。

 

そんな話を旦那にすると、旦那は

「そう思ったって別にいいじゃん。そんなこと思っちゃいけないってことは、ないよ。」

と淡々と言った。

 

 

 

街を歩くと妊婦さんや子連れのママさんがやたらと目に入るようになってしまった。

 

いいなー。

わたしにもいつかまた赤ちゃんが来てくれるかな。次に来てくれた赤ちゃんは、絶対抱っこしたいな。

 

そんなことを考えながらそそくさと買い物を済ませて帰宅する。

 

 

 

無事に出産できた人は、その先もいろいろ悩むことも辛いこともたくさんあると思う。

育児なんて本当に辛いことだらけだと思う。

 

でもどうか産まれた子は大事に育ててほしい。

あと、助けてほしい時は決して我慢せずSOSを出してほしい。

お母さん一人で抱え込まずに、時には人を頼って、頑張りすぎないでほしい。

 

 

 

妊婦さんは、絶対に無理はしないでほしい。

途中で赤ちゃんを手放す悲しみは誰にも味わって欲しくない。

体調がこんなにも辛いこと。

メンタルがブレブレで常に気持ちに余裕がないこと。

周囲の理解で優しくしてもらうとこんなにもありがたいこと。

妊娠して初めて知ったことが本当に沢山ある。

 

多少わがままでもいいから、赤ちゃんを守るのは自分だと自信をもって堂々としてほしい。

赤ちゃんをお腹で育ててることは本当に立派なこと。

だから休むことに負い目は感じないでほしい。

そして周囲もそれを心からサポートしてほしい。

 

 

妊婦さんの一番そばにいる旦那さんは、妊婦の抱えている葛藤、苦悩、不安、プレッシャー、そういうマイナスな気持ちから目を背けないでほしい。

 

楽しいだけの妊娠生活なんて絶対にありえない。

 

一喜一憂している妊婦の気持ちの波にのまれず、話を聞き、ただそばにいてあげてほしい。

時には妊婦のサンドバックになってボコボコに殴られてしまうかもしれないけれど、どうか大きな心で受け止めてほしい。

妊婦はどうしようもなく自分じゃ消化できない、正体もわからない漠然とした不安と闘っている。

そんな妊婦を見て「妊娠前はこんなんじゃなかった」と言って逃げないでほしい。

妊婦だって好きでこうなってるわけじゃない。こうしないと自分も赤ちゃんも守れないから。

それをどうか分かってほしい。