気持ちの整理

家に帰って、ベッドに横になる。

あの灰色のエコー画面が目の前に迫ってくる。

だめだ、だめだ。

 

考えるな。

 

その様子に旦那が気づき、優しく肩を撫でてくれた。

 

 

涙がまたこぼれてしまった。

 

「今日だけ泣いたら、あとは泣かないから。」

 

そう言って背を向けて声を上げて泣いた。

背中をさする旦那も泣いていた。

 

 

「本当はここ1週間、不安で辛かった。

常に不安で、誰にもこの気持ちをわかってもらえなくて、孤独で、自分じゃどうしようもなくて、とにかく辛くてもう嫌だって思ってた。

 

出血も止まらなかったし、こんな状態でちゃんと健康な子が生まれるのかな、もし障害があったらどうしようとか、いろんなことを考えて不安で心が折れてた。

 

だから、流産したって言われて、心のどこかで正直ホッとしちゃってたところもある。

 

子供が欲しくて欲しくてたまらなかったけど、子供を持つってことに責任とか覚悟が足りなかったんだよね。」

 

ポツリポツリと言葉が出てきた。

 

旦那は黙って聞いていた。

そして、

「俺も正直、流産してホッとしてる部分もあるよ。

こんなに出血してたし、生まれてくる子に何かあったらどうしようって思ってた。

だからそう思ってるのはなっちゃんだけじゃないよ。

 

今回のことは残念だけど、前向きに捉えてもいいんじゃない?

先生も『授かれるってことが分かっただけでも良かった』って言ってたし。

次って切り替える気持ちには今はならなくても、いつかまた授かれることが分かったんだしさ。

 

親になる覚悟なんて、そんなのみんな最初から持ってるわけじゃないよ。

とりあえず、先のことはゆっくり考えよう。」

 

 

泣きながら話す私と対照的に、旦那はいつも冷静だ。

 

「淳くんっていつも冷静で、その時は『結局分かり合えっこないんだ』って思っちゃってたけど、今思えば淳くんが言ってることはいつも間違ってなかった。

私は早々に舞い上がって、すぐに不安になって、全然冷静じゃなかった。」

 

「そりゃ俺も不安だったけど、自分のお腹に赤ちゃんがいるわけじゃないから、なっちゃんは比べられないくらい不安だったと思う。そりゃ不安が大きくなるのも仕方ないよ。

自分の体のことでもあるし。

 

なっちゃんと同じ目線にはなれなかったから、冷静に見えたのかもしれない。」

 

 

 

そうか、なるほどなと思った。

 

気分に左右される私に、旦那も全て共感していたら、それこそ冷静さを失って二人でとんでもない発想に至ってたのかもしれない。

 

夫婦二人いるのに、二人がいつも同じ目線だったら目が4つある意味がない。

時にはそれぞれが違う角度からも見ないと、問題の全体像は捉えられない。

 

気分で高揚したり落ち込む私からすると、旦那の態度はいつも一定で冷静、というより冷酷で無関心に見えたけれど、それが良かったのだ。

 

旦那も旦那なりに不安を抱え、悩み、解決策を模索していたのだ。

それなのにそんなことにも気づかないほど、私は思考のベクトルは自分の内の内に向いてしまっていた。

 

 

 

自分のことしか考えてなかったのは私の方だ。

 

静かに、冷静に、旦那は私と赤ちゃんのことをじっくり考えてくれていた。

 

 

 

ああ、この人はやっぱり手放してはいけない存在なんだと改めて実感した。

あんなに暴れ馬状態だった私を見捨てずに、ずっとそばにいてくれて、心からありがとうと思った。

 

 

 

「流産したあと、今まで迷惑かけたと思って仕事に一生懸命になって無理しちゃうだろうから、気をつけてね。」

 

ギクリとした。

 

早速明日から出勤して、今まで迷惑かけた分、仕事やらなくちゃって思っていた。

 

 

 

「しばらく休んでもいいと思うよ。」

 

「そうだね。ありがとう。そうする。」

今となっては素直に受け止められる。

 

多分妊娠真っ只中では

『あーもう、うるさい!やらなきゃいけない仕事もたくさんあるの!休め休めって言われても、休みを下さいってお願いするのも大変なんだよ!そんなことも分かんないくせに理想ばっかり押し付けないで!やっぱりこの人とは分かり合えない!』って思って、ピーピー泣いていたと思う。

 

 

「今回、初めての妊娠だったし、気を張って頑張りすぎたんだよね、多分。だからそんなにつらくなったんじゃない?」

 

「そうかもね。

私、人にお願いするのが苦手で、顔色伺っちゃうし、頼まれたら嫌なんじゃないかなって思っちゃうし、そんなことなら自分でやっちゃったほうがいいって思っちゃってた。

 

人を頼ることから逃げてた。

 

でもこれからは人にちゃんと頼ろうと思う。

助けて欲しい時はちゃんと言えるようになろうと思う。

今回の妊娠で、いかにたくさんの人に助けられたかよく分かった。

だから、人を頼ることから逃げないで、お願いできるようになろうと思う。」

 

「そうだね。」

 

 

 

 

今回の流産の悲しみは消えないけれど、その中でそれ以上の大切なことがたくさん私の手の中に残った。

 

赤ちゃんが宿るということ。

赤ちゃんが十月十日かけて育つということ。

赤ちゃんが無事に生まれてくること。

 

これは全て本当に奇跡なんだと実感した。

妊娠したらみんながみんな無事に出産できるわけではない。

 

命の大切さ

我が子の愛おしさ

支えてくれる家族や友人、職場のスタッフ

信頼できるパートナー

 

心から大切にしていこうと思う。

 

 

 

次はもっと心に余裕を持って、過ごせるようにしたい。

 

本当にありがとう。またね。

元気でね。