9w0d 完全流産

健診前日、母から電話があった。

「どう?大丈夫?」と聞かれた。

「いや、大丈夫じゃない。」

出血のこと、コアグラが出て怖くて産婦人科に駆け込んだこと、安静にしてても無力感に襲われてつらいこと、旦那ともギクシャクしてること、いろんな話をしてため込んでいることを泣きながら話す。

「週末、そっち行くから。弱気になっちゃだめよ!赤ちゃんも心配するから。泣くな、気持ちを強く持ってね!」

 

そう言われたけど、私の心はもう限界だった。

泣き場所も吐き溜めもなく、じゃあこの気持ちはどこに捨てればいいの?

強くなれって、そんなに強くなれないよ。

母親になるには泣くのを我慢しなくちゃいけないの?

もうこんなことならいっそのこと消えてなくなってしまいたい。

 

心が折れかかっていた。

 

誰も私の気持ちなんか分かってくれない。

孤独だ、孤独だ、もう嫌だ。

 

明日の健診も一人で行こう。

旦那に付き添い頼んだけど、「他の妊婦さんはみんな一人で行ってるんでしょ?」と言われた。

あっそう、嫌だったらもう来なくていいよ。

 

一人、一人、一人。

私が我慢すればいいんでしょ。

 

もう嫌だ。

全てやめてしまいたい。

 

 

翌日の健診のこともあり、その日の夜は朝5時まで全く眠れなかった。

 

 

 

翌日、当直明けの旦那から「健診行くよ」と連絡が来た。

来なくてもいいやって思ってた。

不安だったけど、この不安は自分で消化するしかないんだって、他人に対してもどこか諦めの気持ちがあった。

 

時間ギリギリに走って旦那がやってきた。

「ごめん、遅くなった」

旦那の顔を見たらすごくホッとした。

やっぱり来てもらってよかった。

 

 

前回の検査の結果、採血、感染症、子宮頸がんは問題なし。膣からカンジダが検出されたみたいだから、軟膏塗って様子みるように言われ、その日は内診なしで帰宅する雰囲気になった。

 

カルテを見て「あ、出血はどう?」と聞かれ、「実はこの土日にかなり大量に出血して...」

「え?!それはもしかしたら流れてるかもな。とりあえず診察するからね」

 

内診してもらえることになったが、内診台でも垂れるほど出血していた。

 

「出血多いな...ダメかもな...内診するよ」

 

 

超音波プローブが入ってきて、画面を見せられた。

 

「ここ、子宮なんだけど。前はここに胎嚢があったの。今はもう袋がないね。何もない。多分完全に流れちゃったんだと思う。残念だけど。」

 

何も映らないエコーの画面を見つめる。

 

ああ、ダメだったんだ。

 

 

ダメだったんだ。

 

 

 

ついこの前までは元気に心臓を動かしていた赤ちゃんがもういない。

 

 

内診台から降りてズボンを履こうと下を向くと、涙が止めどなく溢れてきた。

足が震えた。

 

ダメだったんだ。

 

さっきの何も映らない灰色一色のエコー画面が目に焼きついて離れない。

 

 

ダメだったんだ。

 

 

内診室から診察室に戻ると旦那も泣いていた。

黙って手を握ってくれた。

 

「がんばったよ、なっちゃんは悪くない」

 

 

 

 

あのエコー画面が迫ってくる。

 

ごめんなさい。

 

私がもう嫌だって言ったから、赤ちゃんがそっと静かに去っていったのかもしれない。

 

私を苦しみから解放するために、自ら流れていったのかもしれない。

 

 

ごめんなさい。

 

ごめんなさい。

 

こんなお母さんでごめんなさい。

 

ごめんなさい。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

 

 

 

診察の帰り、「なんか美味しいもの食べに行こう」って旦那とラーメンを食べる。

 

並んでいる間も思い出すと涙が出るので、努めて明るい会話をした。

 

 

そのあと、一人でコーヒーを飲みに出かける。

家にいるとメソメソしてしまう。

 

妊娠してから我慢してたコーヒー。

 

 

コーヒーを飲みながら、ぼーっとする。

 

プレッシャー、不安、制限された生活から解放されて、本当は少しホッとしている自分に気付いた。

ねえ、なんでホッとしてるの。

とてつもない罪悪感、後ろめたさを感じる。

 

 

子供が欲しいと望みながら、子供ができたことによって制限されるその先の生活を思うと、本当は嫌だって思っていたのかもしれない。

 

 

ごめんなさい。

 

 

ちょっとしばらくは休ませてもらおうと思う。

 

 

人生を考えさせてくれた赤ちゃん。

産んであげられなくてごめんなさい。

 

でもわたしの元に来てくれてありがとう。

 

1ヶ月間であなたが私に伝えてくれたこと、じっくり考えたいと思う。